倒錯思索ステイルメイト

愚問愚答観察。

プロメテウスのThink-Pad

こんにちは。

 

数日前にうちで上映されていた喜劇について、その結末の痛快さに発信衝動を禁じ得なかったためこうして文字を並べています。今回はノンフィクションです。

 

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11-08-20:17(JST)

この日は唯一木曜に入っているコマのアルゴリズム論が休講だったため、目覚ましもかけず午後に起き、雀の涙の足しにもならない程度の労働をしてからデルタ近傍で楽器を吹いてはんなり時間を溶かしていた。「今日も実に怠惰な一日であった」と振り返るころには空の色が妖しく変わりつつあり、秋という季節の評判を落とすには十分に冷たすぎる風がどこからともなく吹きつけはじめていた。その後、雑に誘われた夕食を済ませてから特に寄るところもないので帰宅しすぐに歯磨きをしていたのがこの時刻である。

 

11-08-20:35(JST)

歯磨きを終えてから相も変わらず汚い部屋に戻り何の得も生まないクソデカ溜息をつくと、先週末宇治に足を運んだコンサートにて衝動買いした3枚の音源が枕元に放置されていることに気が付いた。そういえばインポートしてなかったなと思い返し、円盤ドライバを探し始めた。

 

事件の始まりである。

 

家に来たことがある人は大体知っていると思うけれども、僕の部屋は救いようがなく汚い。加えて、先日学生証が消えたとき*1、学生証を探している間にスマホを失くしてしまったことがあったように物を失くす才能まで持ち合わせている。1日1品くらい物が消えたら掃除の手間が省けて楽だろうなと常日頃思っているのだが、生憎と失せ物が増えても物量が減る気配はなく、依然部屋は散らかりっぱなしで物はなくなり放題である。

かくして今回は円盤ドライバがなくなり、掘れども掘れどもその姿を現さない。が、しばらく捜索を続けていると、謎の端末が顔を出した。

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確かにこれは円盤ドライバの類ではあるのだが、僕がこれまで使ってきた端末は本体からUSBケーブルが伸びていた記憶があり、どうにもコレジャナイ感が拭えなかった。じゃぁ発見された端末は何なんだと思いながらも今あるもので何とかしようと思った僕はこれをパソコンにつなぐケーブルを探し始めた。

 

11-08-21:16(JST)

『自分の記憶にある特徴をもつ端末』と、『自分の記憶とは一致しない正体不明の端末とパソコンを繋ぐケーブル』を並行して探しているととりあえず後者が見つかった。とりあえずこれで何とかなるだろうといってエニグマドライバをパソコンに繋ぐ。

 

すると「このUSB端末はこのパソコンからだけじゃ電源が足りないので外部から供給してあげてください」というような見たことのないエラーメッセージが表示された。ドライバを見ると確かにもう一つAC電源用の端子があり、なるほどここから追加してあげたらいいのかともう一つケーブルを探していると円盤プレーヤーを買ったときについてきたACアダプタがあるではないか。

 

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「端子の形も同じだしこれで代用できるっしょ!ワライ」

 

 

11-08-21:24(JST)

パソコンにドライバを繋いだ状態からドライバにさらにAC電源ケーブルをつないだその瞬間、パソコンの電源がフッと落ちた。

黒に染まる画面、青ざめる僕。慌てて諸々を引き抜くが時すでに遅し。恐る恐る電源ボタンを押せども静寂。数分放電して再試行するも静寂。かつてこのパソコンを死の淵から蘇らせるときに使った魔法のリセットボタンを押せども静寂。口から漏れた溜息は虚無の巨匠の口癖の音をしていた。

 

「神は死んだ」

 

 

11-08-21:24(JST)

一呼吸おいてとりあえずTwitterに投稿する。ぼけーっとしているとどうやっても再起動できない状況に対して徐々に危機感が沸き上がってきた。具体的に何が困るかなぁと考えを巡らせると一つの重大なトラブルに思い当たってしまった。

 

書き上げたレポートのバックアップを取っていない。

 

消えたらやだな~って思ってた一部の資料とか原稿とかはバックアップ取っていたんだけど、このレポート.docは数日以内にcloud latex上への転写作業が行われる見込みだったので保険をかけていなかった。何なら衝動買いした3枚の音源をインポートしたらそれを聴きながら転写作業をしようと思っていたくらいだったため致し方なかった。このような状況も判明次第逐次Twitterに投稿していると、学科の同期たちから糾弾の雨が降ってきた。

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いやまぁその通りなんですけどね。こいつら慈悲も容赦もない。

 

11-08-21:55(JST)

Twitterでピエロぶってる間に、何がいけなかったんだろうとか修理方法とかについて電子工学に詳しい人に連絡を取っていた。

調査の結果、使ってはいけないACアダプタを使っていたことが原因だと診断された。

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あろうことかUSBポートに12Vもの電圧を印加していた。

 

電気からっきしの僕でも何かとんでもない禁忌を犯してしまったらしいことは肌で感じた。思考は「電源つかないのかなぁ」という楽観から「コレは治るのか?」「治るとして、その修理費は?」という悲観へと色が落ち始めた。取り返しのつかないことをしてしまったときには惡の華の『時計』の一節が頭をよぎる。

「気高い<美徳>も<後悔>までも、みんながお前に言うだろう————死ね、腑抜けの老いぼれ!もう遅すぎる!」

阿部良雄訳『ボードレール全詩集Ⅰ』より

レポートをさっさとやろうと思った気持ちも、考えなしにコードを繋がなきゃよかったと思う気持ちも、全て時間軸の後方からシンプレックスに槍を投げてくるだけで僕はそれを受けても過去にフィードバックすることはできないのだ。長い夜が降りてくる。

 

11-09-02:11(JST)

虚無を埋めるために動画を見たりしているとこんな時間になっていた。このころは修理する方が良いか新しいパソコンを買う方が良いかで悩んでいた。とりあえずAmazonで安いやつを探していると30000円弱の中古でスペックかなり良いモノがあって「何でこんなに安いんや...???」となりながらレビューを読んでいた。

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酷評しかなくてウケる。まぁ埃や毛は掃除すれば良いとして(よくねぇ)、バッテリーが新品交換済って書いてあるのに1時間そこらしか稼働できないってどうなっているのだろうか。安いし仕方ないかなぁなどと思っている頃には時刻は4時を回っていた。

 

11-09-04:33(JST)

自分の不注意によって修理費または購入費で予期せぬ数万の支出が予定されてしまう現実を突き付けられ、近頃の散財しまくった自業自得による金欠には払いがたい金額について一時的に親に貸してもらうために相談もしなきゃかなぁとか考えていると当然眠れなくなった。

しかし突如転機は訪れる。

夜中の僕は淡い希望を捨てられずに30分に1回くらいの頻度でパソコンの電源ボタンを押しては「まぁ、つかないよな...」ってなる虚無プロセスを繰り返していたがこれが功を奏した。

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何か知らんが急に復活した。

 

かつて三日三晩の仮死状態に陥ったり、電源を認識しなくなったり、前触れなしに再起動を繰り返すようになったりと完全に狂ってしまいながらも息絶えることはなかったこのThink-Pad-X1Carbonくんは今回もまたしても大英雄ヘラクレスの如く死から蘇った*2

 

動作確認をすると、原因となったUSBポートが一個使い物にならなくなっただけで中身は全部無事だった。どうやらUSBの方でショートなりトラブルが起こっても本体にダメージが伝播しないよう工夫がなされているらしい。かがくのちからってすげー!

 

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あとは起動するたびに「USBイカれてるぞ!!!」って警告が鳴るようになっってたけどもかわいいものである(画像をよく見てもらえたら分かる通りバッテリーが認識されておらず空っぽ扱いになっている。こういう状態だと電源につないでも充電されないしこの不具合のほうが厄介)。

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こうしてパソコンサヨナラクライシスは一晩の間に解決を迎えたのだった。めでたしめでたし。

Thank you Lenovo, Lenovo forever.

www.lenovo.com

*1:物をよく失くす人あるある:物を失くしたときに「消えた」とか「なくなった」とか言う。

*2:どちらかというと死にかけなのに無理やり動かされているだけなので、不死の特性を逆用され3万年もの間毎日内臓を食われる拷問を受けたプロメテウスの方がお似合いである。